「Coldstring,Rain of ray」
〜冷たい糸、光の雨〜


柊けいこ様・作








降りしきる霧雨の中に、五右衛門は佇んでいた。 冷たい雨だった。濁った、灰色の穹から絶え間なく零れ落ちる透明の滴は、 先程まで乾いていた地にも、色彩のくすんだ草木にも、ひとしく潤いを与えている。 その地面に、抜き身の刀が突き立っていた。 傍らに打ち捨てられた、白鞘。先程五右衛門は、自ら斬鉄剣を抜き、そうしたのだ。 白銀の刃を、水の筋がしきりに伝ってゆく。 けれど、鞘に納めるつもりはなかった。 自身の身体が、雨に濡れ、次第に重くなっていくのを感じながらも、 傘を差す気にはなれなかったのだ。 不意に、水の跳ねる音が耳に届いた。 振り返ると、雨に煙る視界の向こうに、人の姿が見えた。 無音の世界を破ったのは、どうやら足音だったらしい。 人影は、やがてはっきりと目に映る。 表情と感情を隠す、黒き帽子。口許に浮かぶ、皮肉めいた笑み。 「…次元…」 「よう」 呼びかけに、男は差していた黒の傘を軽く上げる。 それから五右衛門を見、呆れたように肩を竦めた。 「長いこと、立っていたみたいだな。そんな格好じゃあ、風邪引いちまうぞ?」 「…何しに来た」 「随分な挨拶だな。ルパンが、お前さんを捜してたんだ」 その視線の、鋭さに怖気づくこともなく。 アジトに戻るぜ、と溜息混じりの言葉と共に、伸ばされる手を、五右衛門は思わず払う。 だが、次元の微笑は消えない。 「どうした。俺はルパンでも、あの女でもないんだがな」 「…拙者に構うな」 「悪いが、そういう訳にもいかねぇんだよ…と、それは斬鉄剣か?」 地面に、無造作ともいえるように突き刺さった刀が、五右衛門のものだとは俄かに信じられなかっ たのだろう。普段慎重に扱っている様からは、確かに想像がつかないのかもしれない。 次元は歩み寄ると、それをゆっくりと抜く。 刃から伝った雫が、柄を握る彼の手を濡らしてゆくのを、五右衛門はただ静かに、見つめていた。 その間にも、雨は微かな音を立てながら降り続く。 「なぁ、五右衛門…」 やがて次元の口から、呟きが洩れた。 「お前…俺達と共に生きることを、罪だと思っているのか?」 雨は、嫌いだ。 冷たい糸に、縛られているようで。 前に進むことも出来ず、後ろに引き返すこともかなわず。 銀の糸は、その凍りつくような冷たさを以て、自分を闇に留めおくのだ。 「…解らんよ」 しばしの逡巡の後、五右衛門はかぶりを振る。 「だから、こうしているのだ。動けなくなるまで打たれ続けたら、答が解るかもしれぬ」 「答、ねぇ…」 すると何を思ったのか、次元は手から、差していた傘を離した。 開いたままのそれは地面に落ちて、遮るものを失った彼は、瞬く間に、雨に濡れてゆく。 「五右衛門、雨は何も教えちゃくれないぜ」 驚きに、目を見張る自分にそう言って、帽子も外す。 常は庇に隠された、思慮深い輝きを秘める瞳が、露になった。 「何も…」 「雨はただの水だ。降る理由を捜そうとしても、意味がないのさ。 何も教えようとしないし、何も洗い流そうとはしない。そうだろう?」 とうに、何もかも見透かしているような物言いが、あの男のそれと重なった。 最も、近い場所にいるからなのだろうか? 「次元、拙者は…」 「…お前さんは、正直すぎる」 唇を、苦い笑みの形に曲げる。 「それは別に、悪いことじゃない。でもな五右衛門、あまりに正直すぎるのは良くねぇ。 あいつは生き方が正しいかどうかなんて、誰にも解らないし、答えられないんだ」 正しいとは思っていなかった。 けれど、間違っているとも言い切れなかった。 飄々と自由を駆けるあの男は、時折、あの軽口からは信じられない程の冷酷さや、激情を見せる。 言葉(ウソ)ひとつで、仲間さえ思うままに翻弄しながら、時に、無防備にも思えるような真実を 呟いたりもする。 敵(かたき)のままであれば、おそらく分からなかっただろう。 …道化の裏には、底知れぬ哀しみと、孤独があったのだということに。 抱く闇は決して見せず、恐れるものなどないと嘯(うそぶ)いて、生きる為に盗むのではなく、   盗む為に生きる。 だからこそ、自分はあの男に惹かれたのだ。 「…何が正しくて、何が間違いかなんて、本当は決められない」 次元は白鞘に納めた斬鉄剣を、五右衛門に向かって差し出す。 「俺だって、自分のやっていることが正しいとは言わねぇ。義賊なんざ、御免だしな。 間違った道を選んだように見えるかもしれない。でも、そんなのはどうだって良かったんだ。 俺はルパンの傍にいる時、自分が生きているんだということを一番実感出来たんだから」 存在が必要とされる喜び。 生きているという、確かな証。 それは紛れもなく、自分が望んでいるもの。 「正義だとか、悪だとか…そんなものでは括ることの出来ないあいつが生き方が、俺は好きなのさ」 自分を真っ直ぐに見据える、黒き双眸。 「…お前は、違うのか?」 「次元…」 「離れると決めるのも、このまま俺達と生きると決めるのも、結局は五右衛門、お前自身だ。 俺達がどうこう言うもんじゃないだろう。お前は一体、どうしたいんだ」 受け取った刀を、冷たさに感覚のなくなって手で、握りしめる。 「五右衛門…お前はこの先、何の為に剣を振るう?」 己が生きる為に。 己の誇りの為に。 己が守るべき存在の為に。 確かにここに在ったという証を残す為に、自分は刃を振るうのだ。 雨は、いつの間にか止んでいた。 空を仰げば、濁る灰色の雲の切れ間から、澄んだ青が見えた。 明るく、穏やかな陽の光は、まるで雨のように幾筋も零れ、暗い世界と、心の内を、照らし出す。 …ああ、なんと暖かいのだろう。 「『天使の梯子』って、いうんだとよ。あれを昇っていけば、天国に行けるのかね」 手を翳しながら言うのに、五右衛門は口許を綻ばせた。 「行けなくとも、構わぬよ」 「…そうだな」 次元も目を細めて、微笑む。 言葉に込めた想いに気付いたのかどうか、それは分からなかった。 たとえ辿りつく場所が、『終焉』という名の廃墟だったとしても。 それでも、剣を振るい続けよう。 降りしきる冷たい糸を断ち切って、光の雨の中を歩き続けよう。 自分の選んだ道と、あの男の生き方を信じて。 終








	冷たい糸は 闇に降る
	さながら 抱く悲しみ
	秘めた 真実を零すように

	光の雨は 心を照らす
	それは 微かなる望み
	生きている証を 確かめるもの…








な、な、なんとBBSでも大好評だった次元のウルトラ素敵な小説に続き、
あの『無題(五右衛門)』にまで小説をつけてくださいました!!!(大興奮)
うっひゃぁぁっ!!!しかも五右衛門だけでなく、次元ちゃんまで雨にぬれてるよぉぉ〜☆☆☆
もう、鮮明にシーンが頭をよぎり、興奮のしすぎで失神しそうになりました(苦笑)
いやもう既に一度、昇天してきましたよ・・・(遠い目)

次元ちゃんのセリフがまたかっこいいぃぃぃぃぃぃ☆
あぁん、もう次元ちゃんと一緒なら地獄に堕ちてもいい!!!!!
っていうか、連れてってくれぇぇぇぇっっっっ!!!!!(←バカ)

失礼しました・・・。
でもホント、すごく感激です〜〜〜っっっ。
この感動をどう表現しよう!!!
っていうか柊さん、“小説家”として食っていけますよ〜!
もうベタ惚れ。公認ファン1号の座は私がもらった!!!!!!(爆)

しかし、真面目な話、柊さん受験なんですよね・・・(滝汗)
お忙しい中、こぉんなこんなこんなこんな素敵な小説を
ホンッとうにありがとうございました!!!!!
もう一生貴方についていきます(滝涙)



3/5
柊さんよりとある件でメールをいただいたんですが、その中に小説にリンクした詩が!!!
またご無理をお願いしてアップさせていただいちゃいました〜vvvvきゃ〜☆
なんていうか、洗練されたコトバって感じで、すごく綺麗〜vvv


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