lost 柊けいこ様・作
たとえば この手を失うなら この足が奪われるなら たとえば 何もかもを 失ったとしたなら たとえば 貴方のことさえも 覚えていなかったとしたなら 貴方は 私の傍に居るのでしょうか 「…痛ぇな、もう少し優しくやれって」 「そんなの、俺に求めるなよ。だったら、不二子に手当してもらえばいいだろ」 二の腕に、包帯を手際よく巻きながら、ルパンがにべもなく言う。 「馬鹿言え」 傷の痛みに顔をしかめながら、次元はふん、と鼻を鳴らした。 「お前じゃあるまいし、誰があの女なんかに頼むかよ」 「…そうかい」 ルパンは、咎めるように目を細めると、 「じゃあ、文句はナシだぜ」 「へいへい…」 しくじったことに、怪我を負った。 原因は、遡ること一週間前。 ルパンと次元は、とある国の富豪から、美しい宝石を盗み出す。 それが由緒正しい代物だったらしく、その富豪は相当激怒した挙句、 なんと殺し専門の組織を寄越してきた。 アジトはあっけなく知られ、自分達は車で逃走した。 しかし、まずかった。 敵は御丁寧にも、その車に小型の時限爆弾をセットしていたのである。 この時点で宝石はルパンが持っていたのにも拘らず。 直前で気付き、逃げ出したものの、充分に離れるだけの距離は、あまりになさすぎた。 車は爆発炎上。不運にも、帽子は爆風で飛んでしまい、頭を庇うものもなく。 はたして、四方八方に飛び散った破片を、背を向けた次元はまともに食らった。 命にこそ別状はなかったが、頭にも怪我を負い、一時はベッドから起き上がれなかったのだ。 …そして、現在に至る。 「…ざまぁねぇや」 不意の呟きを、右腕の包帯を留めていたルパンが拾う。 「…何がだよ」 「いや…すまないと思ってよ」 無事だった左腕、その手を軽く動かしながら、 「俺は当分使い物になりそうにないからな、この腕だし。それに集中しようとすると、 頭が痛くなっちまうんだ。だから、お前には迷惑をかけることに…」 「俺の所為だとは、言わないんだな」 途中で遮った言葉に、驚いて見返す。 普段の表情が窺えない、何かに耐えるようなルパンの表情。 あの爆発以来、次元はこの男が笑っているところを、見ていない気がした。 「…あ?」 「だってそうだろ、お前は俺を庇った。庇って、こんな怪我を…っ」 そこでようやく、ルパンが言おうとしていることが何なのか、理解する。 「そのことか…」 エンジン音の中に、微かな電子音を聞き取ったのは次元の方だった。 『ルパン、爆弾だ!』 半ば飛び降りるように車から逃れたが、ルパンは一瞬だけ出遅れた。 『…っ、危ねぇっ!』 …気付いたら、ルパンに覆い被さっている自分がいた。 あの瞬間、何故咄嗟に身体が動いたのか、今でも分からない。 それでもあの行動は、次元自身の意志でやったことだ。 だがルパンは…。 「先に爆弾に気付いたのも、お前だった!」 もしかしたら、ずっと抑えていたのかもしれない。 堰を切ったように、ルパンの口から感情が溢れだした。 「あの時だって、お前は遠くに離れることが出来た筈だ。 なのに、俺なんか庇いやがって!…その上俺に責めるどころか、謝るのかよ!」 「…ルパン」 「ふざけんな…」 呼びかけると、ルパンは悔しげに俯いた。 「使い物にならないなんて、言うんじゃねぇ… それは大怪我をした相棒を見ていることしか出来なかった、間抜けな俺の方なんだ…」 …ああ、やっぱり。 こいつは、自分を責めているのだ。 怪我ひとつなかった、自分自身を。 「…らしくねぇな、ルパン」 次元はふっ、と頬を緩めると、腕を伸ばした。 ベッドの傍らの椅子に座ったルパンの肩、そっと置いた手に、僅かな震えが伝わってくる。 ルパンが、顔を上げた。 「じげ…」 「お前は、馬鹿だ」 そんなことを、思う必要はなかったのに。 そんなことで、苦しむ必要はなかったのに。 「俺は、お前にさえ怪我がなければ、どうなっても良かった」
いいえ 貴方が傍に居ることを 望みはしない それでも私は この両手も この両足も 貴方を 救うことが出来るのならば 失うことなど 厭わないのです 戸惑ったような、ルパンの声。 「お前…」 「ずっと、考えていた」 次元は、肩から手をゆっくり離すと、その指で、頭の包帯に触れた。 そして、ルパンの方に向き直る。 「たとえば、俺が記憶喪失になっていたとしたら、お前はどうしてた?」 「…何だよ、それ」 途端に、ルパンが眉をひそめる。 次元はそんな顔すんなよ、と笑みを浮かべ、 「実際、当たりどころが悪ければ、記憶の一つや二つ、吹っ飛んでいたかもしれないんだぜ。 いや、そうじゃなくてもいい。この腕を失ったり、この足を失っていたとしたら…」 「…次元」 「でもな、俺はそれでも構わなかったんだ。もしあの時、お前を庇っていなかったら、 それで取り返しのつかないことになっていたなら、俺は絶対に、俺自身を許さなかったからだ」 言って、深い漆黒の瞳を見据える。 「死んだって構わなかった」 お前さえ無事ならば。 失うことなど、 「馬鹿はお前だ!」 突然だった。 叫ばれた台詞を理解するより前に、自分の身体がぐいと持ち上がった。 どうやら、椅子から音をたてて立ったルパンに、シャツの襟首を掴まれたようだった。 傷の痛みが、あちこちで跳ねる。 「痛ぅっ…おいルパン、怪我人にいきなり…」 「痛いのはこっちだ、勝手なこと好き放題言いやがって…」 「勝手なことじゃねぇ。俺は事実を…」 「それが腹立つってんだ、馬鹿野郎!」 何度も馬鹿なんて使うんじゃない。 返そうとした言葉は、だが言葉になる前に喉の奥に追いやられた。 …彼の頬を伝った、一筋の滴の為に。 たとえ 何もかもを 忘れたとしても それが 貴方を救った故ならば 私は 哀しみはしないのです 「お前の言う、『取り返しのつかないこと』になった時…」 零れた涙を拭うと、ルパンは掠れた声で呟いた。 「どうすることも出来なかったのを一生後悔するのは、何もお前だけじゃないんだ、次元…」 「でも、俺は…」 「俺にだって、自分の命を投げうってでも、助けたい存在がいる。 たとえそいつが足を失っていようが、手が失くなっていようが、 俺のことを覚えていなかろうが、それでも…俺の傍にいて欲しい奴がいるんだよ。 自分の所為でそうなってしまったのだとしたら、尚更だ」 あまりに真摯な眼差しに驚いて、思わずかぶりを振る。 「馬鹿言うな…代わり、いるじゃねぇか。俺の役目だったら…」 「いない」 ルパンははっきり言い切ると、襟首から手を離した。 次元は、半ば呆気に取られたまま、ベッドに腰を下ろす。 「俺が無事なら、『死んでも構わない』なんて言う奴が、そうそういてたまるか。 俺にとって、相棒はたった一人なんだ。今までも、そしてこの先もな」 けれど 願っても良いのでしょうか 求めても良いのでしょうか …ひどく、嬉しいと思った。 言いたいことは山程あったが、今真面目に答えたら、次元までもらい泣きをしてしまいそう だったので、わざと冗談めかして答える。 「…すげぇ、殺し文句だな」 「次元…こんなこと、不二子にだって言わないぜ」 「そりゃそうだ」 するとルパンが、ようやく口元を綻ばせる。 そして、まるで子供を相手にしているかのように、軽く頭を小突いてきた。 「殺されてくれたんだったら、二度とあんなことはするんじゃねぇぞ」 言ってくれるものだ、と心中で苦笑するしかない。 好き放題言っているのは、お互い様ではないか。 だが悪いことでもなかったのかもしれないと、考えている自分もいた。 「…分かったよ」 …失いたくないと思っていたのは、自分だけではなかったから。 たとえ私が 何もかもを 失ったとしても 貴方は 私が傍に居ることを 望んでくれているのだと 自惚れても良いのでしょうか…
終。






柊さんっっっっっ!!!!!ありがとうございました〜☆☆☆
大感激です!!!!!!!!

なんと、私の描いたルパン(49番)のレベル3シリーズ・次元「無題」に、
こぉぉぉんな素敵な小説をつけてくださいました!!!!!!(滝涙)

きゃ〜っっっっ!!!もう、最高ですよ〜☆
最初、BBSで「書いてもいいですか〜」って聞かれたときにはびっくりしたけど、
それ以上に驚いたのが、なんとその3日後に柊さんから1通のメールが。
『まさか』と思い、開いてみると・・・・。ぐっはぁぁぁっっ(鼻血)

今までサイトやってて一番感激した瞬間でした(爆)
あまりに興奮しちゃって、夜、寝付けなかったくらい(苦笑)
もう、あんなヘボ絵からどうしたらこんな素敵な小説が生まれるのか!!!
文章を絵にするのは簡単だけど、絵を文章にするのって大変ですよ!?!?
あぁ・・・文才とはかくなるものか・・・。
うらやましいのを通り越して、ただただ尊敬☆ホントにため息が出てしまいます。

とにかく、ルパンと次元が大好きな私にとって、これは一生の宝物です(涙)
セリフがも〜、切なくてセクシーでかぁぁぁぁぁっこいい☆
真面目にルパンが可愛いですっっっ!!!!!(滝涙)最高っ!!

やっぱり、ルパンと次元にはシリアスな会話が似合いますね〜vvvv
いやん♪顔がニヤけちゃいます(照)

柊さん〜〜〜〜っっ(涙)
もうホンッとうに(×100)ありがとうございました!!!

SEO [PR] おまとめローン 冷え性対策 坂本龍馬 動画掲示板 レンタルサーバー SEO