『星へ行く船』
〜 山田康雄とラジオドラマ 〜

 


--●放送データ●-------------------------------------------------------


『星へ行く船』1986年放送(10分×全10回)
 原作:新井素子
 出演:山田康雄、小林聡美



--●あらすじ●---------------------------------------------------------


家出をして地球から飛び出した主人公。
星へ行く船で、謎の二人組みの男とたまたま同室になってしまったことから、
意外な事件に巻き込まれてゆく・・・というロマンチックSFファンタジー。



・・・と、かなり大まかに書いてしまいましたが、
何のことはない、これ以上は何を言ってもネタバレに繋がってしまうため、あまり詳しく
書けないのです(苦笑)
かなり昔の作品ですが、文庫も出ている作品です。
なかなか面白い作品なので、是非機会があれば読んでみて下さい。


二転三転するドキドキハラハラ、そしてちょっとだけ胸がキュンとなるストーリー展開。
分かる人には分かる、まさに新井素子ならでは、な作品です。


その作品が、ラジオドラマとしてNHK−FMで放送されたのは今から19年前、
1986年のことでした。




--●七色ボイス●-----------------------------------------------------


まずはキャストの紹介から。


19歳の家出人(主人公)役に小林聡美さん。
主人公と乗り合わせることになる謎の男“山崎太一郎”役に、山田康雄さん。
そしてその相方の“大沢さん”役に・・・山田康雄さん。
謎の敵、“黒木”役に、山田康雄さん。
はたまたその相棒の“山中”役に、山田康雄さん。
さらにはとある“爺や”役に、山田康雄さん・・・。



そう、キャストはたった2人しかいないんですよ。

主人公以外の声は全て山田さんが1人で演じているんです。


これで面白くないわけがない。




中でも第7話は全10話中、特に山田さんの七変化ボイスを堪能できる回で、
ここで山田さんが演じた登場人物の数はなんと5人。

―――いや、正確にはナレーターやボディガード役まで演じていたので同時に1人7役かしら。


例えば・・・



ボディガード「動くな!手を挙げろォっ!!」
大沢    「待ってくれ。この人(黒木)は話し合いにきているんだ」
爺や    「ガシュナー様、―――(中略)―――。さ、こいつらをワシの部屋へ連れて行け。
       強力な自白剤で何もかもしゃべらせてやる。」
山中    「だ、だめですっ!黒木さんは何も知りませんっ」

                       〜7話より抜粋〜



以上は全て山田さんがたった1人でしゃべるシーンなんですが、
何度聴いても1人で演じているということが信じられないくらい、完璧に
演じ分けられているシーンでもあるんですよ。

流石に誰が誰だかわからなくなって何度かNGテイクを出した、と後に
山田さん自身が語っていますが(とは言っても山田さんのことだから本当かどうかは
不明/笑)。

この4人も5人も声を演じ分けるというのが、素人にはどんなに大変なことかは、
実際に試してみれば一目瞭然。

しかも例え数種類の声色を作れたとして、台本を読みながらそれを使いわけ、
よどみなくセリフをしゃべれるかしらん、と。

ドラマチックに、かつスピーディに。
少なくとも私は・・・頭の切り替えがついていけそうにありません(苦笑)
聞いているだけで精一杯。



それを山田さんは、ある時はまさにルパンのような軽い地声に近い声、
ある時はイーストウッドのような男らしい、あるいは押し殺したような声、
ある時はドスのきいたかなり低音の声、
ある時はおどおどと情けない素っ頓狂な声、
そして、ある時はしゃがれた老人の声・・・と、次から次へめまぐるしい勢いで、
しかしキャラクタを破綻させることなく演じ分けてみせるんです。


(さらにはラジオドラマの冒頭と最後に短いトークがあるのですが、
 そこでは女性の声まねをするシーンまでもあったり/笑)


まさに山田さんの七色ボイス・・・言ってみれば才能を一挙に楽しむことができる
贅沢な作品、それがこの「星へ行く船」でした。









--●ちょっとしたこだわり●-------------------------------------------


太一郎「疲れた?」
主人公「うん、少し」
太一郎「よし、ちょっと休むか」
主人公『太一郎さんは砂の上で仰向けになる。私はひざを抱えて座り込む。
    なんだか・・・疲れている。とっても。』
太一郎「元気出せよ」
主人公「うん」
太一郎「もうじき地球に帰れるって」
主人公「・・・うん」
太一郎「どうしたの?さっきまで喜んでたのに」
主人公「・・・・」
太一郎「そんなひざなんか抱えちゃってェ・・・横になれよ」
主人公「ちょっと!やだ!!太一郎さんっ!!なにすんのよ!!!!・・・あぁ!」
太一郎「・・・・・・やっと気付いた?」
主人公「・・・・・・うん」

                           〜最終回より抜粋〜



さて、山崎太一郎と主人公がとある星の砂漠を歩くシーンに、こんなセリフがあります。

山崎太一郎が、主人公に頭上に輝く星を見せようとするシーンなのですが、
ここは筆舌に尽くしがたいものがあるんですよ。
まさに迫っている(押さえ込まれている)かのようなとてもリアルな声で囁かれ、
思わず心臓はバクバク、心拍数は急上昇。(待て!そういう意味かっ/爆)


いやいや、当人いたって真面目。

しかし、なぜそんなにもリアルに聞こえるのか。そこがまたポイントなんです。

まず、

「ひざなんか抱えちゃってェ」

ここで太一郎が起き上がるのが手に取るように伝わってくるんですが、
山田さんはたった一文字でその“動き”を表現してしまっているんですよ。

どういうことかと言うと、

「ひざなんか抱えちゃって」

という具合に、最後の「ェ」を他の語より強調して言うことで、
声の主が、遠くから近くへぐっと近づいてきたかのような錯覚を作り出している
んです。


そして「横になれよ」。


ここの、声のトーンを微妙に変えて、あたかも体重を移動させて主人公を押し倒して
いるかのような演出が、なんとも絶妙っ!!

・・・なのです。
(こんな時、自分の語彙の少なさを嘆いてしまうんですが、この声の出し方は言葉では
 上手く説明できない〜っ)


もちろん、脚本に「ここで起き上がったように」「ここで押し倒すように喋る」
なんて御丁寧な指示が書かれていたとは思えません。
恐らく自身の勘と仕事に対する誇りが、自然とそう演出させたんでしょうね。

一瞬の、本当に聞き逃してしまうようなポイントなんですが、
そんなちょっとしたシーンにまでこだわりを持って演じている山田さん、
「よっこらしょ」なんて野暮なセリフではなく、また通常用いられるような
効果音で仕草を表すでもなく、たった一文字の音の抑揚だけで
登場人物の動きをリアルに表現してしまう、
しかもそれをわざとらしくではなく、ごくごく自然に演じてしまう山田さん。

そういう山田さんを見つけるたびに、改めて憧れの念を抱いてしまいます。





ちなみに、この作品は、ただ山田さんが声をしているからという「だけ」の
理由で好きなのではありません。

むしろ初めてこの作品と出会った時は、純粋にストーリーに惚れたくらい。
それだけストーリーもいいんですよ。

テンポよくトントンと進むストーリーは気持ちよく、
プッと吹き出してしまうシーンも少なくありません。
二度、三度と聴きなおしても飽きることなく楽しめる作品になっています。


そして、この山田さんが演じる山崎太一郎というキャラクタ自体も実に魅力的。
(あくまでも私の個人的な趣味ではありますが。<イイ男)
自信過剰で、洞察力が鋭くて、お節介でお人好しで、優しくて。
惚れた登場人物を、これまた大好きな人が演じているのだから文句が付けられよう
はずがない・・・なぁんて。







--●“Remember”――――そして、“Foever”●----------------------------


山田「この次ハレー彗星が来る時はさ、さとみちゃんいくつ?」
小林「えっと76年後だから、96歳ですね。生きてるかな(笑)」
山田「や、大丈夫じゃない?さとみお婆ちゃんだ。いいねぇ(笑)」
小林「えへへ。76年後の地球、どうなってんでしょうね」
山田「でもまぁ仮に僕が生きてなくったって、僕たちの子孫がまた
   ハレー彗星に出会える事を祈るよね。」

                       〜冒頭トークより抜粋〜





ところで、この「星へ行く船」は『カフェテラスの二人』というラジオドラマ番組の
中で放送された作品なんですが、毎回本編の前後に2人の短いトークが入っているのが
このシリーズの特徴でもあります。


これがまた面白かったんですよ。

山田さんが女性の声マネをしてみたり、クサいセリフを言った後で照れてみたりと、
聴いていて嬉しくて、懐かしくて、何だか切なくて涙が出てくるもので。

結局、上記の「76年後」のハレー彗星も、96歳になったお婆ちゃんの
小林さんも、山田さんの瞳に映ることはなくなってしまった、
この現実はとても哀しく残念なことでした。

だけど、こうして20年近く経った今も、山田さんの声はきちんと残っている。

ここが重要なんですよね。


人の心に残り続ける限り、人から人へ受け継がれていく限り、故人は決して
完全な無に帰すことはない。
いつまでも生き続ける。今までもこれからも。

Remember。

そして、Foever。




だから私もこの山田さんの残した一つの傑作を、後世へ伝えていきたいと
思っていたりします。

しかし10年前も今も、NHKの回答は残念ながらNO。
著作権やその他もろもろの問題で、この時代の作品というのは再放送、およびCD化
がとても難しいんだそうです。

そこで現在、私の所有しているエアチェック音源を使ってこっそり(※)公開放送を検討中です。
(※堂々と公開するといろいろ複雑な問題があるので)

近々第1話をこっそり流してみようかと・・・
(反応が一定値を超えるようなら第2話以降も?)


ま、それはいずれ改めて準備が整い次第。


よかったら聴いて下さい。




--●あとがき●-------------------------------------------------------


ところで「星へ行く船」にはもう一つ、山田さんバージョンとは別のラジオドラマがあったり
します。
1982年に文化放送「ラジオ小説『私の文庫本』」で放送された広川太一郎バージョン
がそれ。
広川さんもまた、言うまでもなくルパンと切っても切れない関係にありますよね。

もともとこの作品は、原作者が広川さんをイメージして作ったもので
(主人公の名前が太一郎さんなのはそういった理由で)、広川さんバージョンは
あって当然たるものでもありました。


それにしても、放送局が違うとは言え、同じタイトルの作品を別のキャストで
放送するといった事例は、ラジオドラマの中ではかなり珍しい部類に入ります。


いずれこの広川太一郎バージョンについても、スポットをあててみようかと。


ではではまた次回。










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■ 公開放送 ■
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--●8月14日●-----------------------------------------------------

 星へ行く船 第1回

  公開終了

--●9月7日●-------------------------------------------------------

 星へ行く船 第2回

  公開終了

--●12月25日●-------------------------------------------------------

 星へ行く船 第3回

  公開終了


   


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